2019年夏にリリースした1stシングル「Gorilla Anthem」で突如としてシーンに出現したGorilla Attack。約1年のインターバルを経て届けられた1st EP「GORILLA CITY」は、パラレルワールドの渋谷を舞台にしたサイバーパンク的な世界観、そして、オルタナR&B、2ステップ、トラップなどを経由したトラックと2MC(ヒガシローランド、ニシローランド)個性的なフロウを共存させた音楽性によって、音楽シーンに鮮烈なインパクトを与えた。ユニットのコンセプト、楽曲スタイル、今後のビジョンなどについて語ったインタビューを通し、Gorilla Attackの世界を紐解いてみたいと思う。
(interviewer:森朋之)
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——ヒガシローランドさん、ニシローランドさんは、インターネット上で出会ったそうですね。
ヒガシローランド そうです。けっこう前から接点はあって、仲は良かったんですけど、音楽的に絡んだことはなくて。まったく別のルートを進んでいて、とは言え、関係が切れることもなく、付かず離れずの距離感というか。
ニシローランド そうだね。たまに「最近、何してる?」くらいで。
——そんな微妙な距離感の二人が、どうしてユニットを組むことになったんですか?
ヒガシ いろいろあって僕の状況が落ち着いて、「1回やってみようか」という話になって。
ニシ 一緒にやったら面白そうだなと思ったんですよね。以前からヒガシのことは知ってたし、すごい人だっていうのもわかってたので、曲を作ったらカッコいいものが出来るんだろうなって。ワクワクしてましたね。
——最初から期待感があった、と。
ヒガシ すごくありました。ラップという括りは共通しているんだけど、ジャンルがまったく違うんですよね。例えば声だったり、使うフロウだったり、言葉選びだったり。おおよそ、すべてのものが違うなと思っていて。ニシのラップは質感として硬いんですよ。
ニシ 俺も同じこと言おうとしてた(笑)。小節ごとにしっかり韻を入れたり、スタンダードなラップという感じだから。声も低いし。
ヒガシ 鉱物みたいな感じだよね。僕はヌルッというヌメッというか、境目が曖昧で流動的な感じというか。その二つを組み合わせたら、お互いにないものを出せるじゃないかなと。
——なるほど。ちなみにニシさんは、リスナーとしてもオーセンティックなラップがルーツなんですか?
ニシ いや、実は自分、ラップを始めるまで、あんまりラップを聴いたことがなかったんですよ。やってみようかなという感じで始めたときに、思い浮かんだのがステレオタイプなラップだったから、そこでスキルを磨いてきて。
ヒガシ 僕も「めちゃくちゃラップを聴きまくってました!」という感じではないですね。ニシは正統派のラップを吸収してきて、こっちは「何でもいいっしょ」というか、使えるものは使うという感じなのかな。「これが正解」みたいなこだわりもないし。
ニシ 俺は逆に「正解」というものを追い続けてる感じです。
——ユニットを結成するにあたって、コンセプトや活動のビジョンについて話したんですか?
ニシ 話しましたね。バーチャルとかサイバー感、「次世代の渋谷」というテーマだったり。“ゴリラ”というコンセプトを強く出すことで、共感させ過ぎないような歌詞にしたいという気持ちもありました、個人的には。孤高の歌詞みたいなものを書きたくて。「この歌詞が胸に刺さるんだよ」みたいな曲は多いけど、人をゴリラに置き換えることによって、それが緩和されるかなと。そのことによって歌詞のレベルもアップするんじゃないかなとも思ってましたね。
——共感を求め過ぎないというのは、ヒガシさんも共有していた?
ヒガシ それはめっちゃあって。Gorilla Attackの根幹のメッセージとして、「コミュニケーションは基本的に無意味」というのがあって。結局、人と完全に分かり合えることはないと思うんですよ。でも、そのなかで言葉を交わし合って、交信し合って、互いがそこにいることを認識する。コミュニケーションの本質って、それでしかないんですよね。分かり合えないんだけど、「お互い、そこにいる」ということがわかっていて、そこに喜びを見出すというか。
——そのテーマに適していたのが、ゴリラの孤高な存在感だったと。“分かり合えないのが前提”という考え方は、根本的な人間の在り方にも関わっているし、今の社会にも重なってますね。
ヒガシ そうですね。言葉というツールは非常に強力だし、僕たちはそれに24時間左右されながら暮らしていて。SNSのこともそうですけど、過去よりも多くの言葉に晒され続けているし、翻弄されてますからね。ただ、さっき言ったように、コミュニケーションは基本的に、“いるか、いないか”でしかないんじゃないの?っていう。
ニシ 自分も前々から、そういうことを考えていて。音楽も言葉に左右され過ぎてる気がしてるんですよ。音楽を音楽として捉えているのかな?って思ってしまうというか……。子供の頃に聴いてた音楽は、ファースト・インプレッションがすごかったんですよ。そういう衝撃を味わってほしいし、歌詞を書くときもそのことを意識してますね。
——音楽をよりダイレクトに届けるためにも、ゴリラというペルソナが必要だったのかも。
ヒガシ そうですね。ゴリラと人を対比させることで、伝えたいメッセージも浮き彫りにできるし。
——音楽的な部分はどうですか?
ヒガシ ヒップホップをやりたいという気持ちはありましたね。フタを開けてみたら、僕のパートはそうでもないというか、ラップっぽい成分が若干多いくらいですけど。そのぶんニシがやってくれてるので、Gorilla Attackはヒップホップですと言っても齟齬はないのかなと。
——ヒップホップにこだわりたかった?
ヒガシ そうですね。なんかやりたかったんですよ(笑)。
ニシ カッコいいしな、ヒップホップって。
——1stシングル「Gorilla Anthem」には、ヒップホップへのこだわり、「Gorilla みたいに生きられたら、こんな幸せなことはないな」という歌詞を含めて、いま話してもらったコンセプトがそのまま反映されていると思います。トラックメイクは、ササノマリイさん。
ヒガシ ササノは以前から何曲も一緒に作ってきたし、最もやりやすいトラックメイカーの一人なんです。彼もヒップホップを通ってるんだけど、自分の曲、提供曲を含めて、あまりヒップホップをやっているイメージがなくて。ぜひ一緒にヒップホップをやりたかったし、彼のトラックにニシの石みたいなラップをぶつけてみたかったんですよ。実際、しっかりメリハリがついて、すごくいい曲になったと思います。
ニシ 同じ音色でも、自分とヒガシのラップは聴こえ方が全然違っていて。それがすごくいいんですよね。
ヒガシ 曲も一瞬で出来たしね。
ニシ 0時スタートで、1時半には完成してたんじゃない?
——制作のときは、スタジオに集まるんですか?
ヒガシ いや、会ってないです。
ニシ お互いの家でやってました。
ヒガシ もうずいぶん会ってないよね。っていうか、ほぼ会ってない。直接会って話したのって、10分くらいじゃない?
ニシ 肉声を聞いたのは、それくらいだね(笑)。
ヒガシ ニシ、あのときは元気にアロハシャツを着てた気がする。
ニシ そうだった(笑)。夏だったからね。
——1st EP「GORILLA CITY」の収録曲についても聞かせてください。まずは1曲目の「Gorilla Step」。トラックメイクはYaffleさんです。
ヒガシ 藤井 風がめっちゃ好きで。歌詞がすごくいいんですよね。辛いこととかもあったと思うけど、根元にはめっちゃ大きい愛があって。
——なので藤井 風さんの楽曲制作に関わっているYaffleさんにオファーした、と。
ヒガシ iriさんとか、Yaffleさんが制作に関わっているアーティストの楽曲も聴いていたし、ぜひ一緒にやってみたいなと。誰にどういう曲を頼むかというバクチが好きなんですよ。「この人にこういう曲をやってみたら、どうなるかな」っていうことなんですけど、Yaffleさんは本当にプロフェッショナルだし、楽しかったですね。最初はZOOMでミーティングして、いろいろ喋ってるなかで「2ステップで」ということになって。
ニシ うん。このEPの制作のなかで、いちばん楽しかったかも。BPMが速めで、哀愁もあって。歌詞も乗せやすかったし、「素晴らしい!」としか言えないクオリティでした。デモ音源にヒガシが書いたフックの部分が入っていて、それをもとにリリックを書いて。
——フックというのは「Gorillaに言葉はいらないから」ですか?
ニシ そうですね。
ヒガシ さっき話したコンセプトをそのまま書いてしまおうと思って。「Gorilla Step」は並行世界のイメージなんですよ。MVもそういうニュアンスが反映されているんですけど、現実に限りなく近いんだけど、決定的に何かが違う世界ですよね。一見、いつも通りの渋谷なんだけど、そこには2頭のゴリラしかいないっていう。現実の世界もすごく近いところにあるから、人々の声も聞こえてきて、そこにある孤独感を描きたくて。そこまでをニシと共有して、何をどう書くかは任せる感じですね。
ーーダークな雰囲気の「隔世 gorilla」は、Loyly Lewis ( ケンカイヨシ )との共作。
ヒガシ ケンカイとも何曲も一緒にやってるし、こういう曲が得意なのも知っているので。「隔世 gorilla」は彼なりにトラップを解釈して作ったみたいです。音数を少なくして、ヘンな声で歌って……みたいな雑な解釈ではなくて、トラップの本質的に優れた部分を抽象化して、転用するということだと思うんだけど。
ニシ 歌詞を乗せるのはメチャクチャ難しかったですね。この世界観、俺のラップでいけるか?と思ってしまって。ヒガシの支えもありつつ、上手いことスピット出来て良かったです。
ヒガシ この曲のニシのヴァースは最高だからね。
ニシ 1回まるっとNGもらったんですよ、ヒガシに。「そういうことじゃないよ」って。「ニシの思ったように書いて」って言われたことがフックになって、Gorilla Attackへの理解度が100%になったというか……。それまではヒガシが提示したテーマやサビのフレーズに対して飾り付けするような感じで書いてたんですけど、「そうじゃなくて、君もその空間にいていい。どう思ってるか書いてほしい」と。
ヒガシ 二人組のユニットの場合、どっちかが主導権を持ったほうが物事を進めやすいし、まったく均等なバランスでやるのは難しいから、どうしても遠慮する部分が出てきちゃうんですよね。自分が逆の立場だったら、「これでいいの?」「こういうことを求めてるの?」という気持ちになると思うし。でもGorilla Attackではーーテーマは僕が決めることが多いですけどーーニシには好き勝手に書いてほしいし、その言葉を聞きたいんですよね。「隔世 gorilla」ではそれがしっかりやれたので嬉しかったです。
——「隔世 gorilla」の舞台もパラレルワールドの渋谷。「PARCO の下抜けてさ WWW にめがけて Dive」というラインもありますね。
ヒガシ 新しいPARCOめっちゃ好きなんですよ。工事してたときは、「ここが開いてないと街の風通しが悪いだろ!」と思ってたんですけど(笑)、オープンしたら「ここが吹き抜けになるのか」という驚きがあって。あの空間のデザインはすごく美しいし、そのまま歌詞に入れちゃいました。
——そして「月」はノスタルジックな雰囲気の楽曲。これ、ラブソングですか?
ヒガシ そうですね、恋愛ソングを作ろうかと思って。「Gorilla Anthem」でも歌ってるんですけど、Gorilla Attackの主人公は弱いんですよ。「Gorillaみたいに生きられたら、こんな幸せなことはないな」をキーワードに掲げているということは、今はそうじゃないということなので。
——ゴリラのように強くなりたいと願っている、と。
ヒガシ 愛すべき相手に対しても「強くありたい」と思ってるんだけど、どうしても完璧な自分ではいられなくて。一時的にキメることはできても、一緒に暮らして、永続的に強い自分でいられるかといえば、そうではないっていう。それをニシのヴァースが諭してくれてるような曲ですね。あと、やっぱりゴリラも恋はするので。
ニシ 「月」に対しては、俯瞰で見ているところがあって。Gorilla Attackの曲なんですけど、自分たちの曲じゃない感じが好きです(笑)。パートによって「ここはラップではなくて、ラップっぽくやろう」というアイデアが生まれたり、自然にやれた曲ですね。
——「ゴリラ・バカンス」はニシさんが主導した曲だとか。
ヒガシ 最初のアイデアだけ僕が出したんですよ。「ゴリラの休日」か「ゴリラ・バカンス」かで迷ってたんだけど、結局、バカンスになって。
ニシ 「ゴリラがバカンスしたら、どこに行きますかね?」「やっぱり南かな」みたいなところから作って(笑)。箸休め的な曲というか、歌詞に伏線があるとかではなくて、思うがままに書いた感じです。
ヒガシ 言葉遊びだよね。終始楽しかったです。
ニシ それこそアロハシャツで寛いでるようなテイストもありつつ、しっかりラップしてる部分もあって。気は緩んでるけど、根本は緩んでないというのかな。そういう人間でありたい、という意味合いもありますね、個人的には。
——「Gorillaと雨」はシリアスな雰囲気の楽曲。
ヒガシ これもケンカイと一緒にやった曲ですね。雨がすごく好きで、「Gorillaと雨」というタイトルだけで「これでいきたい」と思って。
ニシ 雨の日って、みんなが各々の生活に戻る感じがあっていいよね。
——ニシさんの「もう僕らはリズムを合わせないよ 出来ないよ」というライン、いいですね。
ニシ 「隔世 gorilla」で得たものを題してる感じはありますね。Gorilla Attackとしてのテーマともつなげながら書いたところもあるのかな。
——そしてEPの最後は「Gorillaむかしばなし」。雲のすみかさんがトラックを手がけたノスタルジックな楽曲です。
ヒガシ 雲のすみかさんは僕がめちゃくちゃ好きで、前からやってみたかったんですよ。「まんが日本昔ばなし」みたいな世界観の曲にしたくて、「“むかしむかし あるところに”から始めようね」ということだけ指定して、あとはそれぞれが好き勝手に書いて。僕が桃太郎、ニシが浦島太郎を使ってるんですけど、Gorilla Attackと昔話がマッシュアップしたらどうなるか?という感じかな。最後は抽象的になって、ゴリラを人間の歴史をずっと裏から見ている伝説の生き物として描いて。“こういうフィクションでした”と明示して終わってるんですけどね。
——「紙芝居“GORILLA CITY” これにて幕引き」という
ニシ 最後はラップというより語りですね。しかも“めでたし、めでたし”ではなくて。「こういう手があるのか」って普通に感心してました。
——Gorilla Attackの世界観、音楽的なビジョンが提示された作品だと思います。この先の展開も見えてきたのでは?
ヒガシ Gorilla Attackはバーチャルな存在なので、それをどうやって表に出していこうか考えていて。ヒガシローランド、ニシローランドのキャラクターを立たせるために、小説に落とし込んで発表するのがいいのかな、とか。フィクショナルな存在だから、メディアミックスしながら膨らませるのがエンタメとして面白いと思うんですよ。次の音源に関しては、フルアルバムがいいのか、今回くらいがいいのか、もう少し小さいサイズでどんどん出すがいいのか迷ってます。とは言え、今回やってみて、すごく楽しかったので。可能性はめちゃくちゃ感じてますね。
ニシ いろんな人に聴いてほしいですね、まずは。
ヒガシ そうだね。
ニシ 最初にも言いましたけど、いわゆる“共感”みたいなところを削いでるユニットなので、わかりづらい部分もあると思うんですよ。だからこそ、自分たちのクオリティを何度も提示し続けないと。曲をコンスタントに出し続けるのも大事だと思ってます。
ヒガシ ライブもやりたいですね、せっかくだから。渋谷のWWWとか(笑)。バーチャルなアーティストって馴染みがないから、伝えられるようにがんばろうかなと。
ニシ 声明としては、「そっちの世界に行くまで、もう少し待ってて」という感じにしとく?
ヒガシ そうだね。紙芝居の世界から出ていきますよって(笑)。